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 TAR/ター


ケイト・ブランシェット主演の最新映画『TAR/ター』を観ました。

世界最高峰のオーケストラの一つ、ベルリン・フィルの首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)は、その才能と努力でキャリアの頂点を築くも、教え子の一人が自殺したことを機に、ターの権力を利用した性的ハラスメントが暴かれ、人生が崩壊していく……。

という内容には違いないのですが、セリフが物語の解説になっている作品も多い昨今、この作品は、説明的要素がなさすぎ…!
おかげで、現実と幻想が入り混じる映像の、どれが現実でどれが幻想なのかさっぱり分からず、混乱しまくり。

物語の展開も、前半は、ターの指揮者哲学がひたすら語られるシーンが大半を占め、しかも難しい言葉を多用(それもターのキャラを表している一つの要素ではありますが)。
しかし、ターの性的ハラスメントが明るみに出る後半は、打って変わって場面が急展開し、前半と後半の展開スピードの落差が激しすぎ。

全てはトッド・フィールド監督が意図してやっていることに違いないにせよ、このクセの強い演出についていけた観客はどれほどいるのか?
とにかく私は分からなすぎて、家に帰ってネットでネタバレ解説を読んでやっと、なるほどとそれなりに理解した次第です。

とはいえ、分からないなりにも感じたのは、主人公ターは決して共感できるキャラではなく、自信満々で高圧的な権力者なのですが、そういうタイプの人は、地に落ちてもしぶとく生き残る生命力の強さを持っているということ。

もう這い上がってこないでほしいと思う人物ほど、這い上がる精神力をもっていて、それでも改心していればいいけれど、そうではなく這い上がってくる怖さを秘めているで厄介です。

ところで、キャストにマーク・ストロングの名前があり、聞き覚えのある名前と思ったら、コリン・モーガンの最新作『Dead Shot』で憎たらしい上司役を演っている俳優でした。
『ター』では全く別人で、名前を見て後から気が付きましたが、どちらの作品も強い存在感で場面を持っていく力のある名脇役です。

もちろん、主演のケイト・ブランシェットは熱演中の熱演で、これを最後に俳優業を引退するといった記事もチラッと目にしましたが、あそこまで役に入り込むと、体力・気力ともに凄まじい消耗があるのだろうと想像します。
 生きる Living


黒澤明監督の映画『生きる』を、カズオ・イシグロ脚本、ビル・ナイ主演でリメイクした『生きる Living』を観ました。

第二次世界大戦後のイギリスを舞台に、地味に生きてきたしがない公務員の主人公ウィリアムズが癌で余命半年と医者から宣告されたことで、変わっていくウィリアムズの人生感と残りの人生について描いた作品。

カズオ・イシグロいわく、この役は初めからビル・ナイを想定して書いたそうで、ビル・ナイはウィリアムズが僅かに残された人生を悔いなく生きるべく変わっていく様を、淡々と、でも、時に熱く、時にユーモラスに、絶妙なテンションで演じています。

中でも、元部下の若い女子マーガレット(エイミー・ルー・ウッド)に心惹かれ、とはいえ、決してそっち(恋愛)ではなく、彼女のバイタリティ溢れる生きざまに感化され、彼女と交流を持ちたくて映画に誘ったり、職場までわざわざ会いに行ったりするくだりは、ビル・ナイだからこそ微笑ましく見られるわけで、ビル・ナイでなければ、たとえ恋愛感情がなくても微妙にストーカーが入ったキモいオヤジでしかありません。

カズオ・イシグロの期待に応えまくりのビル・ナイの演技がとにかく素晴らしいこの作品、主人公ウィリアムズの人生を必要以上に美化せず、押しつけがましくない演出もニクイです。
 ウェルマニア 私のウェルネス奮闘記


Netflixオリジナル・ドラマシリーズ『ウェルマニア 私のウェルネス奮闘記』を観ました。

ニューヨークに住むフードライターのオリビア(セレステ・バーバー)は、親友エイミー(JJ・フォン)の40歳の誕生日パーティに出席するため故郷シドニーに弾丸帰省するも、バッグを盗まれグリーンカードを失くしてしまう。
テレビ番組の審査員の仕事が舞い込み、すぐにでもニューヨークに戻りたいオリビアは、さっそくグリーンカードを再申請、しかし、審査中に倒れてしまい、健康状態に問題ありと判明。
再びグリーンカードを手に入れるには健康診断にパスしなければならず、オリビアは手っ取り早く健康を手に入れようと知恵を働かせ、行動に出るのだが……。

ドラマの題名から、あらゆる健康法に手あたり次第に手を出し、不摂生から健康オタクに変身する主人公をユーモラスに描いたドラマかと思いきや、ふたを開けると、主人公オリビアが故郷シドニーで過ごさざるを得なくなったことで巻き起こる騒動や、過去の辛い思い出と向き合い、それにより彼女の内面が少しずつ変化していく様を描いたヒューマンドラマでした。

オリビアは、自由奔放に刹那的に生きる、自己中でガサツなキャラで、ニューヨークを舞台にした女子ドラマ『GIRLS/ガールズ』の主人公とかぶるというか、40代になったGIRLSといった雰囲気。

そして、オーストラリアのドラマといえば、同じくNetflixで観た『プリーズ・ライク・ミー』的なほんわか要素もあり。
『プリーズ・ライク・ミー』に主人公の彼氏役で出演していた俳優が、このドラマでもオリビアの弟くんの元カレ役で出演しているのを発見したときは、思わず「お久しぶりです」と心の中であいさつしました。

オリビアの親友エイミーがアジア系(広東語を話していたので香港人と思われ)という設定も親近感が湧き、1話30分でサクサク観れるのもよく、あっという間にシーズン1の8話を完走。

シーズン2を作る気満々な終わり方なので、楽しみに待ちたいと思います。
 エゴイスト


高山真の自伝的小説を、鈴木亮平・宮沢氷魚の競演で映画化した作品、『エゴイスト』を観ました。

普段、日本映画は全くと言っていいほど観ない私ですが、この作品は別。
というのも、私はこの作品の原作者、高山真さんのファンで、彼のエッセイとブログの熱心な読者だったから。

『エゴイスト』が映画化されるとのニュースを知ったとき、同時に高山さんが亡くなられたことを知り、ブログの更新がずっと途絶えていたのはそういうわけだったのかと納得。
癌を患っていたのは知っていたけれど、そうだったのか……。
ということで、高山さんの追悼の意も込めて、映画館まで足を運びました。

14歳で母親を亡くした主人公、浩輔(鈴木亮平)と、母子家庭で育った浩輔のパーソナル・トレーナー、龍太(宮沢氷魚)との恋愛関係、そして、龍太の母親と浩輔の親子のような人間関係を描いたこの作品。

先ず、高山さん本人を思わせる主人公・浩輔役が、鈴木亮平というのがポイント高い!
何を隠そう、私は数年前、東京に遊びに行ったとき、生の鈴木亮平さんと出くわしたことがありまして!
忘れもしない、表参道の台湾パイナップルケーキのお店「サニーヒルズ(SunnyHills)」で、友人とパイナップルケーキを食べていたら、なんとそこに、鈴木亮平さんが買い物に来たのです!
生の鈴木亮平さんは、テレビで見るよりも数倍イケメンでカッコよくて、それ以来、密かに応援しています。

余談はさておき、鈴木亮平さんの役作りがとにかく素晴らしく、実際の高山さんには会ったことはないけれど、きっとこんな感じだろうなと、全く違和感なく観れました。

そして、恋人・龍太役の宮沢氷魚の体当たりの演技!
宮沢氷魚さんは、そのルックスから勝手にアイドルっぽいイメージを持っていたので、まさかここまでやるとは驚きです!
この映画がR15指定なのはそういうことだったのかと。

龍太は表向きはパーソナル・トレーナーですが、裏の顔があり、その絡みで龍太のセックス・シーンがふんだんに盛り込まれ、それはまるで『Queer As Folk』を彷彿とさせるしつこさ。
正直こんなに盛り込まなくてもいいかも、とは思いましたが、宮沢氷魚という俳優に対するイメージがすっかり変わったのは確かです。

さらに、ほとんどのシーンが“寄り”で、“引き”の映像がほぼないカメラワークも特徴的。
そうすることで、登場人物それぞれの人間関係の濃さ、距離の近さを表しているのかなと解釈しました。

全体的に重たいトーンの中、浩輔とゲイ友達との軽妙な会話シーンがとても心地よく、自分もあのグループの輪の中に入りたいと、思わず羨望。

観る人それぞれの感じ方に委ねる、説明しすぎない演出も良く、高山さんはこの作品の完成を待たずに逝ってしまいましたが、きっと気に入ってくれているだろうと思える上質な作品でした。
 写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと
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ニューヨークが生んだ伝説の写真家、ソール・ライターのことを知ったのは、2020年。
東京でやっていた展覧会「永遠のソール・ライター」を観たのがきっかけでした。

それ以来、すっかりファンになった私は、今回、この展覧会が福岡にやってくるというニュースを知り、あの感動をもう一度(!)と喜び勇んで行ってきました。

展覧会に合わせて、ソール・ライターのドキュメンタリー映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』の特別上映もあり、そちらも鑑賞。

ソール・ライターが2013年に89歳で亡くなる数年前に撮られた作品で、おじいさんになったソール・ライターがぼそぼそと人生観を語る姿を淡々と映しています。

有名になる、名誉を得る、といったギラギラした承認欲求ゼロ、むしろ誰にも気づかれたくないというソール・ライター。
それなのにドキュメンタリーを撮られているという矛盾に「まあ仕方ない」とぼやく、その「仕方ない」に、彼の生きざまが表れているというか何というか。

何でも取っておく性分らしく、未整理の過去の作品やら何やらで溢れかえっている住み家に、無秩序の中にも秩序があり、それが心地よいという感覚は、断捨離魔の私には目からうろこでした。

ソール・ライターがニューヨークの些細な日常の風景を好んで撮り続けた背景には、「幸福は人生の要じゃない、それ以外のすべてが人生なんだ」という人生観があり、“それ以外のすべて”に惹かれるからこそ、あんなに素敵な写真が撮れるのだと、このドキュメンタリーを観て感じました。

それにしても、ソール・ライターの作品を観ると自分でも撮れそうな気分になるのがすごい。
絶対に撮れないのに(笑)。


 コリン・モーガン 『The Killing Kind』に出演!
先週の1月17日に、コリン・モーガンがイギリスのブリストルで何やら撮影しているとの目撃情報があり、動画や写真付きでコリンファンのSNSを賑わしました。

撮影していたのは、アメリカの動画ストリーミング・サービス、Paramount+(パラマウントプラス)が手掛けるミニ・ドラマシリーズ『The Killing Kind』と判明。
記事によると、『The Killing Kind』は、作家Jane Caseyが2021年に発表した同名小説の映像化で、有能な弁護士イングリッド・ルイスが弁護する依頼人ジョン・ウェブスターと親密な関係になってしまい、思わぬ危機にさらされるというスリリングなサスペンス。

今のところ、コリンの役どころは不明。
しかし、記事の内容から「charming, good-looking, successful and clever」なジョン・ウェブスター役で間違いないだろうと勝手に推測。
これまた楽しみな作品が増えました!

とはいえ、Paramount+は果たして日本で観られるのか?!
ざっと調べたところ、配信国に日本は含まれていないものの、VPNを使うと観られるらしい。
ということで、しかるべき時が来たら改めてやり方を詳しく調べるとしよう。

コリン出演作品のニュースは色々あるものの、順調に撮影が進んでいるのかいないのか定かでないものも多く、ファンはつい心配になりますが、そんな心配をよそにハードワーカーのコリンは次々と精力的に活動しているようす。
今後も見守っていきたいと思います。
 ゴールド・ディガー ~疑惑 年下の男
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年の差カップルの恋愛サスペンス『ゴールド・ディガー ~疑惑 年下の男』を観ました。

裕福な家系出身で、お金には困らない主人公ジュリア(ジュリア・オーモンド)は60歳になり、離婚して子供たちも皆成人、孤独な自分を持て余していたところ、30代の美青年ベンジャミン(ベン・バーンズ)と出会い、恋に落ちる。
親子ほども年の離れたベンジャミンに溺れるジュリアを見るに見かねた子供たちは、ベンジャミンは「金目当て」に違いないと信じて疑わず、探偵まがいの行動に出て何とか証拠を掴もうとするのだが……。

“ゴールド・ディガー”とは、金銭目当てに結婚や交際を企む人のことを意味するそうで、まさにそのまんまのタイトルが分かりやすい。
しかし、物語が進むにつれ、ベンジャミンの謎とともに、ジュリアとその家族にも実は深い闇があることが徐々に明らかにされ、自分を偽ることの苦しさ、自分に正直に生きる勇気、といった人間ドラマ的な要素が色濃くなっていきます。

個人的に、年上女性が年下男性に好かれるシチュエーションの作品は好きなのですが、ここまで年の離れた者同士が惹かれあうのはどうにも理解しがたく(男女逆パターンもしかり)、それもあってかベンジャミンが怪しすぎて、最後まで目が離せませんでした。

しかもベンジャミン役のベン・バーンズがイケメンなので、余計に怪しさが増すというか何というか…。
イケメンといえば、ベンジャミンの兄と名乗る男が途中から登場してくるのですが、ひげで覆われ過ぎて顔つきが分かりづらいながらも、実は兄もイケメンでは(!)と思ったら、クレジットを見て、デヴィッド・レオンと分かり納得。

デヴィッド・レオンは、イギリスの長寿刑事ドラマ『ヴェラ~信念の女警部~』で、初期のヴェラの相棒役で知り、その時から好きなタイプのイケメンだったので、ヴェラを降板してからどうしているのか気になっていました。
今回、思わぬ再開にビックリ。
久しぶりにデヴィッド・レオンが拝めてよかったですが、もっと出番が欲しかった……。
中途半端に出て中途半端にいなくなってしまったのが残念です。

他の注目のキャストでは、イギリスのドラマを観ているとしょっちゅう出くわすアレックス・ジェニングスが、今回も厭味ったらしいジュリアの元夫役で半端ない存在感を示し、さすがの演技でした。

観終わってみると、そもそもジュリアは何であんな厭味な男と結婚していたのかという新たな謎が生まれるとともに、あまりに年のかけ離れた恋愛はやっぱり理解しがたいなと改めて実感した、そんなドラマでした。

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